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ローカルしらべ

みんながまなび、多様な当事者が輝くための居場所づくりを実践する『社会福祉法人 ながよ光彩会』

2023.03.29 みせ


いとなみ研究室がおくる「ひとこと講座 -公開取材とローカル編集-」の公開取材企画・第2回は、社会福祉法人 ながよ光彩会の代表理事を務める貞松徹さん。

長与町で展開する地域を巻き込んだ福祉のあり方は、教育的な視点も多数兼ね備える。貞松さんがそれらを実践する場こそが、今回の公開取材の会場である「みんなのまなびば み館」だ。

み館やながよ光彩会の取り組みを知れば、あなたの「福祉」のイメージが広がり、自身にとっての「福祉」が思い浮かんでくるかもしれない。

人口減少と高齢化にはさまれ、介護人材が不足する長崎県

「まずちょっとカタイお話からさせていただくと……」。貞松さんは、そう言って切り出した。

現在の介護福祉業界では、いかに人材を呼び込むかということに関して行政も民間も課題を感じている。長崎県の人口減少は進行し、2022年の調査結果では130万人を下回ったところだ。加えて、高齢化率も進行は止まらず、65歳以上の人口は43万人を超え、県の人口の3分の1以上を占めることになった。

貞松「私たち高齢者福祉の相手となる65歳以上の方たちは、減っていく人口の中でも割合が増えていってるんですね。ただ一方では、介護職員が不足しています。65歳以上の人口が44万人に達するのも目前になっていますが、それに対してどのぐらいの割合で介護が必要になるかを積算すると、2,100人の人材が不足すると言われているのです」

だからこそ、介護福祉の人材確保に向けて各方面がさまざまな取り組みに励むのだが、民間も行政も「どうすれば福祉を志す人が増えるのか」という具体的な議論が無いままに進んでしまっている現状に、貞松さんは課題を感じている。


長崎県の「介護のしごと魅力発信事業」における中学校での出前授業の様子

貞松「小・中学校、高校などにも授業に出向くことがありますが、私たちが学校の生徒に会える機会なんて、年に1回あるかないかです。年に1回『福祉っていいよ』と魅力を伝えに行ったって、別にその子たちが将来なりたい職業には繋がらないじゃないですか」

「だったら、授業で話すことをどうやって体験してもらうか」。貞松さんは、み館の取り組みの紹介へと話を進めていった。

福祉体験を日常の中で届けていくために。

みんなのまなびば み館のコンセプトは、「まちのリビング」。

高齢者福祉の利用者が入居するグループホームの1階部分が改装されて、2020年7月にオープン。(現時点では)誰でも無料で自由に出入りできるコミュニティスペースが、福祉施設の入り口部分に誕生した。

貞松「今日、会場に来ていただいた方は分かると思いますが、み館に入るためには2段の階段を上がらなければいけません。そして、部屋の中には移動式のスロープを用意しています。私たちが施設をバリアフリーにするのは簡単ですが、世の中がバリアフリーになっていない。だったら同じバリアをみ館にもつくってあげて、どんな工夫をすれば誰もが入れる空間になるのかを考えてもらう余白を残しています」

学校に出向いて介護の仕事や基礎知識を届ける貞松さんらは、その体験を実践できる場所として、み館の運営のあり方に繋げていく。

「ほら、車椅子のおばあちゃんが来たよ。み館の使い方きょうしつで習った、スロープの準備をお願いしていい?」

こんな風に言葉をかけて、子どもたちを頼るのだ。子どもたちはスロープの設置や介助を提供することで、「手伝ってくれて本当にありがとう」と感謝される。そんな「福祉体験」を日常に届けていくための“クロスポイント”だと貞松さんは表現。

普段生活していても、あまり出会うことのない福祉の体験。かつての同級生や兄が貞松さんの人生に大きな意味をもたらしたように、日常の中で交わる小さな体験が、未来の介護職員を育むタネになるかもしれない。

誰もが先生、誰もが生徒。まなびの関係性が作り出した物語

み館では、多様な人たちが集まるきっかけを得るために、定期的にさまざまな「せんせい」が「きょうしつ」を開催する。誰もが先生、誰もが生徒。文字通り、みんなの学び場なのである。

そんないろんなきょうしつの開催を通して、職員が「“好き”を“なりわい”に」変える仕掛けづくりへと繋げていく。ハーバリウムや糸かけ曼荼羅、コーヒー焙煎など、今までに幅広いきょうしつが多数展開されてきた。

みんなのまなびば み館サイト内「せんせい」はこちらから

貞松「誰がせんせいで、どんなきょうしつを立ち上げる場合であっても、生徒(参加者)となるターゲットを明確にすることを徹底しています。定員を5名としたら、『この人と、この人と……』と職員の中から思い浮かぶ人で埋まるぐらいのイメージが湧いていたら実施しよう、というスタンス。広報や集客に労力をかけないようにするからこそ、年間200件を超えるきょうしつを運営できています」

貞松さんやながよ光彩会は、あくまでも「そこにニーズがあるからやる」という姿勢を貫く。実は、み館できょうしつが開催される以前より、同法人が運営する特別養護老人ホームかがやきの中でも、「ひととまちとくらしの学校」という地域への公益事業が展開されていた。

とある職員は、お子さんが学校を休みがちになっている状況にあった。しかし、そんな彼は魚が大好きな魚マニア。並々ならない知識と興味を持っており、「こざかなクン」の愛称で親しまれていた。


貞松「その子、魚を3枚におろすのがすごく上手なんです。コロナ禍で、うちの高齢者施設では外部の人を招くことができず、同居家族以外の交流が禁止だった時期がありました。だったら、その子を施設に呼んで、入居者たちに捌いてくれたお刺身を提供しよう。そうして、子どもがせんせいの『魚の3枚おろしきょうしつ』が実現しました」

“まなび”のストーリーはさらに、介護施設の入居者にも伝播していく。

「私、もう諦めなきゃダメだと思って、何もかも捨ててきちゃったのよ」と語っていたという、施設入居者のHさん。何十年も続けてきた大好きな華道の道具類を、介護施設に入居するにあたって、全て捨ててきたのだそう。

貞松「Hさんからそんな話を聞いていた職員たち。彼女には最初、『生け花の先生をやっていただけませんか?』とは言いませんでした。ただ、『お花を頂いたので、ちょっと生け方を私に教えていただけませんか?』とお願いしたのです。すると、彼女はタンスから眼鏡を出してきて、職人の顔に戻るわけですよ」

みんなのまなびば み館サイト内「きょうしつ」はこちらから

サービスを提供される側の高齢者の方が、今度はサービスを提供する側として自身の好きなことを披露する。

仮に、施設に入居してから人生の最期を迎えるまでの期間を10年間とした場合。特養の入居者として過ごすこれからの10年間を、いかにして豊かに生活していただくか。それをテーマに、ながよ光彩会の職員同士で創意工夫しながら目の前の人たちに向き合っているようだ。

「せんせい」という肩書きは、多様な人が自分らしく輝くための仕組みとして定着し、み館の「きょうしつ」へと発展していった。

多様な人たちの尊厳をまもる、肯定するためのプロジェクトデザイン

「私は、変わらない安定した日々を保証されるより、不安定だけど刺激のある日々を送りたいと考えるタイプ。守られた日常にはワクワクしない」。貞松さんの言葉に耳を傾けていると、施設の中では、知らぬ間に利用者の方々の尊厳や選択肢を損なってしまっているかもしれないことに気付かされる。

貞松「高齢者も同様に、毎日やさしい食事を食べるだけじゃなくて、季節や行事に合わせたものを食べたい時もあるはず。なんとなく当たり前になっている、『高齢者は危険だから餅を食べられない』というそんな思い込みに対して、うちの管理栄養士や職員たちは、やわらかくて喉に引っかからない餅を開発してくれました」

誰でも美味しく食べられるつきたての餅を振る舞うべく、み館で餅つき大会を実施。子どもから大人まで、たくさんの人がこの場所に集まった。

中には、なかなか学校に通えない子や、家庭に居場所がない子など、児童分野の社会課題の当事者・支援者も。高齢者福祉だけに限らず、多様なまちの困りごとが集う、まちのリビングを象徴する光景が生まれた。

他にも「おてつだいポイント」という制度で、子どもが何かを提供する代わりに対価を得られることを体験できたり、地元パチンコ店から行き場のない景品のお菓子を提供してもらったりなど、み館をハブにして地域内で循環し始める。

貞松「こんなことをやっていると、行政からのSOSが来るようになってきて。長与町のウォーキングイベントの企画・運営を委託していただき、過去最高の参加者数と若い世代の参加促進に貢献することができました。また、私個人が所属する『長崎みんな総研』においては、長崎県全体の介護職のイメージアップ・人材確保事業などにも携わっています」

介護人材の不足という課題に対して、日常的に福祉体験できる入り口としてみ館を運営。その結果、多様なまちの困りごとまでもが集まってくる場所へと発展した。草の根の活動から、長崎県や介護業界全体へのアプローチまで、あらゆる角度から貞松さんは自身にできることを全うする。

地域のためではなく、職員のため。

ここで気になってくるのは、運営のコストや組織のマネジメントについて。み館という場所を運営することで多くの社会的な意義が生み出しているが、その体制の実情はどうなっているのだろうか。

貞松「マネタイズの部分はですね、確かに運営はマイナスでしかないです。ただ私は、今後もこのみ館を継続したいなと思ってます。その背景にあるのが、人材確保に向けた広報や宣伝費がゼロだということ。その代わりに、ここに投下しているからこそ継続できているという側面が一つあります」

そしてもう一つは、社会福祉法人で運営する社会福祉事業であれば、法人税や固定資産税が免除されるということが挙げられる。通常の企業ならば支払う必要のある税金が免除されているのだ。

貞松「その税金を地域の方々の居場所として還元しているように見せて、“職員のための空間を地域にお裾分けする”ぐらいのスタンスなので、結果的に『外に出しているお金』という感覚ではないですね」

また、さまざまなプロジェクトを打ち出していくにあたって、組織のマネジメントにもひと工夫を入れている。

貞松「職員みんなが私みたいに人前に出るのが得意かというと、決してそうではありません(笑)。地域の人と関わりを持つにもやはりハードルを感じてしまうので、それをなるべく軽くできるように、職員のことをヒアリングしてまとめた名刺をデザインしています。これを渡せばその職員が何者かが分かり、受け取った相手から会話を投げかけてくれるような仕掛けですね」


み館HPで掲載されている「よみもの」で取材した介護職員。愛車に乗って満面の笑み!

さらに、み館のホームページで連載している「よみもの」コーナー。ライターの視点で職員をインタビュー・記事化し、実際に隣で働いている職員の“実は知らないB面”を描く。それが職員同士の会話のきっかけとなり、チームを固めていくことに繋がる。

職員の福利厚生や、ライフスタイルに合わせて働ける体制づくりだけでなく、こうした職員のプロデュースにも注力しているようだ。

長与のクリエイターや学生とのタッチポイントを増やしていく。

最後に、貞松さんが考えるこれからの展開や、今後の課題について尋ねてみた。

貞松「私にできないことといえば、デザイン周り。クリエイティブの部分についてはプロに託したいですね。ただ、それが例えば他県に住んでいる方だと、長与のことが“一人称”にならないじゃないですか。だから、やっぱり長与に住んでいて、長与の土地をすごく好きだという一人称体験をお持ちの編集者たちがクリエイティブで表現してくれると、すごく変わっていくんじゃないかなと思います。そういう私ができないことをやれる人がこの町に住んでくれるのであれば、積極的にその方にお仕事をオファーして一緒に動きたいですね」

また、今でこそみ館には子どもから大人まで、多様な人たちが集まる場所となった。しかし、それでも学生が日常的にこの場所を訪れるまでには至っていない。


貞松「私達が表現していきたい福祉の分野に、学生たちにも一緒に運営者として関わってもらいたいです。そして、『福祉、面白いじゃん』って学生時代に感じてもらうこと。そんな体験を提供したり、大学生たちでも楽しめるような商売が増えたりすることで、この街の活性化はまた違ったものになるんじゃないかなと思います。だから、大学生や高校生との“タッチポイント”はまだまだ作っていかなくちゃいけないんですよね」

今回の一連の公開取材企画には、長崎県の地域づくり推進課が携わる。貞松さんの専門分野である、高齢者福祉ではない。このように、ジャンルを超えて多様な大人と出会える機会や、官民の連携が生まれていることに貞松さんは喜びを感じていた。

多くの人たちが長崎を面白くしようとしている機運とそのポテンシャルは、地域や分野を超えて互いに呼応し、良い流れを呼び込んでいく。

公開取材の様子はこちらから。

貞松徹さんの「ひと」の記事はこちらをご覧ください。